フェニルケトン尿症(PKU)の診断と治療
フェニルケトン尿症(PKU)は、新生児マススクリーニングで発見され、生涯にわたる食事療法が治療の柱です。
フェニルケトン尿症(PKU)の診断
日本では、1977年以降新生児マススクリーニング検査の中でフェニルケトン尿症(PKU)は発見されます。
新生児マススクリーニング検査(先天性代謝異常等検査)とは?
知らずに放置すると、やがて神経障害が出たり、生命にかかわるような障害が発生する可能性のある生まれつきの病気(先天性代謝異常等)を、⾚ちゃんのうちに⾒つけて対策を講じて、障害発生を予防する自治体の事業です。
生後数日の赤ちゃんの足の裏から、ごく少量の血をろ紙にしみこませて、専門の検査機関に送り、病気がないかどうか調べてもらいます。
検査で陽性を示した赤ちゃんは、各地域の専門医の診察・診断を受け、治療や生活の指導を受けます。
診断について
新生児マススクリーニングの血中アミノ酸分析で血中フェニルアラニン値が高値(およそ2mg/dL以上)の場合には、高フェニルアラニン血症であることが疑われます。
この時点ではまだ疑いであり、全ての方に治療が必要というわけではありません。
次に精密検査として、血漿中アミノ酸分析(血漿中フェニルアラニン値の測定)、およびいくつかの検査やテトラヒドロビオプテリン(BH4)への反応性の試験が行われ、1)
PAH欠損症(亜型であるBH4反応性高フェニルアラニン血症を含む)、2)BH4欠損症について鑑別診断が行われます。
PAH欠損症については、無治療時の血漿中フェニルアラニン値より、さらに次の3タイプに分類される場合もあります*1:
①古典的フェニルケトン尿症(20mg/dL以上)、②軽症フェニルケトン尿症(10mg/dL以上20mg/dL未満)*2、
③軽症高フェニルアラニン血症(2mg/dL以上10mg/dL未満)。なお、基準値は0.7〜1.8mg/dL*3です。
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*1. 無治療時の血中フェニルアラニン値は摂取フェニルアラニン量により異なることから、重症度分類について一定の見解はありません。
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*2. 名前は軽症ですが、治療を適切に行う必要があります。
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*3. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019 http://www.jsimd.net/pdf/newborn-mass-screening-disease-practice-guideline2019.pdf
フェニルケトン尿症(PKU)の治療
フェニルケトン尿症(PKU)の血中フェニルアラニン(Phe)濃度の管理目標値*
フェニルケトン尿症(PKU)の治療では、血中フェニルアラニン(Phe)濃度を管理目標値*内に保つことが重要です。
管理目標値*
妊婦を含む全年齢で
2~6mg/dL
(120~360µmol/L)
*新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019 http://www.jsimd.net/pdf/newborn-mass-screening-disease-practice-guideline2019.pdf
食事療法
フェニルケトン尿症(PKU)治療の原則は、食事療法です。
タンパク質(フェニルアラニン)の摂取を制限しながら、エネルギー量や栄養素をきちんと摂取する必要があります。
低タンパク食と治療用特殊ミルク(食事で不足するたんぱく質を補うためのフェニルアラニン除去ミルク)が基本です。
フェニルケトン尿症(PKU)の食事療法の課題
食事療法は、幼児期を過ぎるとますます難しくなり、思春期から成⼈期にかけて特に困難になると⾔われています。1
- 家庭での調理、または適切な外食メニューを見つける2,3
- 学校/職場/社会的な場で医療用食品を摂取することが困難である。2,3
- 限られた医療食の選択肢2,3
- 恥ずかしさや仲間に拒絶されることへの恐れ2,3
- 周囲/社会のサポート不足4
- 医療機関や家族からの厳しい食事指導2
- 低タンパク食品へのアクセス/保険適用範囲の制限1,4
- 治療にかかるコスト(通院時間を含む)1,4
- 1. Vockley J, et al. Genet Med. 2014;16(2):188-200.
- 2. van Wegberg AMJ, et al. Orphanet J Rare Dis. 2017;12(1):162.
- 3. Sharman R, et al. Clin Nurse Spec. 2013;27(4):205-210.
- 4. Berry SA, et al. Genet Med. 2013;15(8):591-599.
患者さんの声
- 食事療法は物心がついた時からしています。
- 幼稚園は魔法瓶を持参して、特殊ミルクを作って飲んでいました。
- 小学校の給食は、献立表を持ち帰り、親に教えてもらった食べられるものをだけを食べていました。
- 小・中・高はお弁当でした。
特殊ミルクは帰宅後に飲むことが多かったですが、遅くなる時は持参していました。 - 食事療法は厳しいですが、⾎中フェニルアラニン(Phe)濃度が上がってしまうので続けています。
- 周りの人が普段食べているものが食べられない。
見ていると食べたくなってしまいますが、我慢しています。
※患者さんの声は体験に基づく一例であり、疾患の状態、症状、食事療法は患者さんによって異なります。血中フェニルアラニン(Phe)濃度のコントロールや食事療法は医師の指導に従ってください。
薬物療法
食事療法を行っても血中フェニルアラニン(Phe)濃度を治療目標値内に保つことができない場合は、薬物療法が選択されることがあります。
薬物療法では、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の代わりとなる酵素製剤または天然型テトラヒドロビオプテリン(BH4)製剤を投与することで、血中フェニルアラニン(Phe)濃度を低下させます。